「リュコメーデース」の版間の差分

ページの作成:「'''リュコメーデース'''({{lang-grc-short|'''Λυκομήδης'''}}, {{ラテン翻字|el|Lukomēdēs; Lukomếdês}})は、ギリシア神話の人物である。トロイア戦争当時のドロプス人の王で、スキューロス島に王宮を構えていた。彼は、少年時代のアキレウスを女装させて彼の王宮に匿ったことと、彼に庇護を求めた晩年のテーセウスを害したことで知…」
 
 
(同じ利用者による、間の4版が非表示)
1行目: 1行目:
'''リュコメーデース'''({{lang-grc-short|'''Λυκομήδης'''}}, {{ラテン翻字|el|Lukomēdēs; Lukomếdês}})は、[[ギリシア神話]]の人物である。[[トロイア戦争]]当時の[[ドロプス人]]の王で、[[スキューロス島]]に王宮を構えていた。彼は、少年時代の[[アキレウス]]を女装させて彼の王宮に匿ったことと、彼に庇護を求めた晩年の[[テーセウス]]を害したことで知られる<ref name=grm-263>Grimal, p.263。</ref>。
'''リュコメーデース'''('''Λυκομήδης''', Lukomēdēs; Lukomếdês)は、ギリシア神話の人物である。トロイア戦争当時のドロプス人の王で、スキューロス島に王宮を構えていた。彼は、少年時代のアキレウスを女装させて彼の王宮に匿ったことと、彼に庇護を求めた晩年のテーセウスを害したことで知られる<ref name=grm-263>Grimal, p.263。</ref>。


長母音を略して'''リュコメデス'''とも呼ばれる。
長母音を略して'''リュコメデス'''とも呼ばれる。
5行目: 5行目:
== 概説 ==
== 概説 ==
=== アキレウスを匿う ===
=== アキレウスを匿う ===
[[File:Achilles Lycomedes Louvre Ma2120.jpg|thumb|320px|リュコメーデースの宮廷の[[アキレウス]]。[[ルーヴル美術館]]所蔵。]]
トロイア戦争の英雄アキレウスは、ペーレウスと海の女神テティスの子であるが、テティスはアキレウスがトロイア戦争に参加すれば、必ず若くして戦死する運命にあることを知っていた。アキレウスを死なせないため、テティスはスキューロス島の王であるリュコメーデースに頼み、アキレウスを匿い、ギリシア軍が彼を見いだせないように秘匿することを依頼する<ref name=grm-263 /> <ref name=apol-13-8>アポロドーロス、巻三-13-8。</ref> <ref name=grd-303>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.303。</ref> <ref name=k-256>呉茂一『ギリシア神話』、p.256。</ref>。
トロイア戦争の英雄[[アキレウス]]は、[[ペーレウス]]と海の女神[[テティス]]の子であるが、テティスはアキレウスがトロイア戦争に参加すれば、必ず若くして戦死する運命にあることを知っていた。アキレウスを死なせないため、テティスは[[スキューロス島]]の王であるリュコメーデースに頼み、アキレウスを匿い、ギリシア軍が彼を見いだせないように秘匿することを依頼する<ref name=grm-263 /> <ref name=apol-13-8>アポロドーロス、巻三-13-8。</ref> <ref name=grd-303>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.303。</ref> <ref name=k-256>呉茂一『ギリシア神話』、p.256。</ref>。


リュコメーデースは預かった9歳のアキレウスに少女の衣服を着せ、王宮の後宮にあって彼を娘の王女たちのあいだに隠した。アキレウスはリュコメーデースの王女たちと共に少女として育ち、王宮では[[ピュラー#アキレウスの偽名ピュラー|ピュラー]]と云う女性名で呼ばれた。また彼は、イッサ(Issa)、あるいはケルキュセラー(Kerkysera)と云う名で呼ばれたともされる<ref name=grm-263 /> <ref name=grd-52>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.52。</ref>。
リュコメーデースは預かった9歳のアキレウスに少女の衣服を着せ、王宮の後宮にあって彼を娘の王女たちのあいだに隠した。アキレウスはリュコメーデースの王女たちと共に少女として育ち、王宮ではピュラーと云う女性名で呼ばれた。また彼は、イッサ(Issa)、あるいはケルキュセラー(Kerkysera)と云う名で呼ばれたともされる<ref name=grm-263 /> <ref name=grd-52>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.52。</ref>。


しかしトロイア戦争においてギリシア軍は苦戦し、アキレウスの参戦が望まれた。[[オデュッセウス]]は、彼がリュコメーデースの王宮に乙女に扮して隠れていることをつきとめ、策を講じてアキレウスの正体を顕した。アキレウスは王女[[デーイダメイア]]と男女の関係になっており、一子ピュロスをもうけていたが、トロイア戦争に参戦した<ref name=apol-13-8 />。ピュロスは後に[[ネオプトレモス]]と呼ばれるようになる<ref name=grd-303 /> <ref name=k-256 />。
しかしトロイア戦争においてギリシア軍は苦戦し、アキレウスの参戦が望まれた。オデュッセウスは、彼がリュコメーデースの王宮に乙女に扮して隠れていることをつきとめ、策を講じてアキレウスの正体を顕した。アキレウスは王女デーイダメイアと男女の関係になっており、一子ピュロスをもうけていたが、トロイア戦争に参戦した<ref name=apol-13-8 />。ピュロスは後にネオプトレモスと呼ばれるようになる<ref name=grd-303 /> <ref name=k-256 />。


=== 晩年のテーセウスを迎える ===
=== 晩年のテーセウスを迎える ===
[[アテーナイ]]王[[テーセウス]]は晩年に至ってなお、10歳の[[ヘレネー]]を略奪したり、冥府におりて囚われるなど冒険を続けた。冥府からは[[ヘーラクレース]]によって助けられ、再び地上に帰還できたが、不在のあいだにヘレネーの兄弟[[ディオスクーロイ]]が妹を奪還せんとアテーナイに侵攻し、[[メネステウス]]を王位につけた<ref name=grd-162>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.162。</ref>。
アテーナイ王テーセウスは晩年に至ってなお、10歳のヘレネーを略奪したり、冥府におりて囚われるなど冒険を続けた。冥府からはヘーラクレースによって助けられ、再び地上に帰還できたが、不在のあいだにヘレネーの兄弟ディオスクーロイが妹を奪還せんとアテーナイに侵攻し、メネステウスを王位につけた<ref name=grd-162>『ギリシア・ローマ神話辞典』、p.162。</ref>。


テーセウスは、メネステウス一派による、あるいは以前に殺害した[[パラース]]の息子たち一派による叛乱のため、アテーナイより遁れ、親族のリュコメーデースに庇護を求めた。リュコメーデースはこれを受け入れるが、テーセウスが自国の民や臣下の人気を獲得し、彼の王座を奪うことを畏れてテーセウスを害した。テーセウスに友誼を示しつつ、彼を誘って崖の頂きまで行き、そこよりテーセウスを突き落として殺したとされる<ref name=grm-263 /> <ref name=grd-303 /> <ref name=grd-162 />。[[アポロドーロス]]は、崖とは述べず、深い穴に突き落として殺害したと記している<ref>アポロドーロス、摘要-1-24。</ref>。また別の説では、テーセウスは殺されたのではなく、食後の散歩の途中、誤って崖から落ちて死んだともされる<ref name=k-303>呉茂一『ギリシア神話』、p.303。</ref>。
テーセウスは、メネステウス一派による、あるいは以前に殺害した[[パラース]]の息子たち一派による叛乱のため、アテーナイより遁れ、親族のリュコメーデースに庇護を求めた。リュコメーデースはこれを受け入れるが、テーセウスが自国の民や臣下の人気を獲得し、彼の王座を奪うことを畏れてテーセウスを害した。テーセウスに友誼を示しつつ、彼を誘って崖の頂きまで行き、そこよりテーセウスを突き落として殺したとされる<ref name=grm-263 /> <ref name=grd-303 /> <ref name=grd-162 />。アポロドーロスは、崖とは述べず、深い穴に突き落として殺害したと記している<ref>アポロドーロス、摘要-1-24。</ref>。また別の説では、テーセウスは殺されたのではなく、食後の散歩の途中、誤って崖から落ちて死んだともされる<ref name=k-303>呉茂一『ギリシア神話』、p.303。</ref>。
 
== 私的解説 ==
=== 名前について ===
「リュコメーデス」という名は造語であって、「リュコ(男)」+「メーデス(女)」に分けられ、男女の神を習合させた合成神であると考える。[[太昊型神]]の'''憑依型'''といえる。
 
「'''リュコ'''」という名は中国神話の[[伏羲]]に関連し、また北欧神話のロキに類する名と考える。男性を女性に化けさせたり、ややトリッキーな所業を行う'''魔術師型'''の神でもある。アキレウスが男性なのか女性なのか、その延長でトロイア戦争に参加するかしないかは、世界の運命を左右するような大きな問題であり、リュコメーデスの行動一つで世界は揺れ動くことになる。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%B9 リュコメーデース](最終閲覧日:26-03-08)
* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%B9 リュコメーデース](最終閲覧日:26-03-08)
* [[アポロドーロス]] 『[[ビブリオテーケー|ギリシア神話]]』 [[高津春繁]]訳、岩波文庫 1953年、1982年改版36刷
** アポロドーロス 『ギリシア神話』 高津春繁訳、岩波文庫 1953年、1982年改版36刷
* [[呉茂一]] 『ギリシア神話』 新潮社 1969年、1986年33刷
** 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社 1969年、1986年33刷
* [[高津春繁]]編著 『ギリシア・ローマ神話辞典』 岩波書店、1960年、2007年27刷
** 高津春繁編著 『ギリシア・ローマ神話辞典』 岩波書店、1960年、2007年27刷
* Pierre Grimal ''The Dictionary of Classical Mythology'' Blackwell Publishing, 1986, ISBN 978-0-631-20102-1
** Pierre Grimal ''The Dictionary of Classical Mythology'' Blackwell Publishing, 1986, ISBN 978-0-631-20102-1


== 脚注 ==
== 脚注 ==